時空を超えて Beyond the spacetime 

15年くらい前に、歌舞伎、オペラ、舞踏、和太鼓などいろいろなジャンルのエキスパートが融合、合体して作り上げた世界劇「眠り王」にコーラスの一員として参加したことがあります。海老蔵さん、勘九郎さんのコンビに亡き団十郎さんが加わり、リハーサルも含め、何回か壮大な演劇空間を体感することができました。あまりにいろいろな伝統芸能が詰まっているし、こちらも一応出演者として歌わなければならないのでその時はいっぱい一杯でしたが、今思うと外国人が日本のたくさんの伝統文化をいっぺんに味わって混乱した状態のようなものだったのかもしれません。  

 今、歌舞伎や能、茶道をどうやって外国人に説明したらよいか考えています。能をニューヨークやバチカンやギリシアの野外劇場などで上演した時、外国の人々はとても感動し、自分の国で失われた何かがそこにはあったとか、深く感じる何かがあったとか言います。言葉はわからないけど、荘厳な祈りを感じた、日本の文化を感じるため、日本に行ってみたい。

私が眠り王を見ていて感動したのは、若い二人の愛が時を越えて空間を越えていき、その真心はすべてを救うというオペラ歌手の歌でした。

 様々な変化が起こるこの時代に自分が面白いと思えること、情熱と愛を持って取り組めることを見つけるには、「時空」が必要とありました。時間は歴史を学び未来を考えること、空間は違う国に行って異なる価値観を学ぶこと。そうすることで自分の美学が分かってきて、最終的にそれが人やチームを動かすようになるので、それを日々高める努力をする。伝統芸能は、歌舞伎や能や茶道は時空を超えて続いてきたものなのです。だから外国人も感動するのでしょう。

 能の根本は「供養」だと言います。世阿弥の優しさ、その時代の最も弱い人間へのレクイエム、言葉はわからなくてもその真心や祈りに人々は深く心を揺さぶられるのです。私達は素晴らしい宝物をたくさん持っているのに、それに気が付かないし、それをどう生かしていけばいいかもわからない、でもこうやって時空を超えて、外国の方にいかに伝えていくかを考えていくことが、とても大事なキーポイントなのかもしれません。