ピンクの髪の毛

 今娘の髪の毛はピンク色で、義母の葬儀や納骨の時ちょっと話題になったようですが、最近の若者は髪の色もファッションの一部で、水色だったり黄色だったりしている子を見かけると、あら可愛い!と思ってしまいます。とは言いつつ、雨の降る水曜日にトロントからやって来た30代の夫婦の奥様のいでたちには度肝を抜かれ、高身長高体重の旦那様に何を着せようかと直前まで悩んでいた私は、どピンクのおさげ髪にきゃりーぱみゅぱみゅのようなカラフルなドレスを着て眼鏡をかけた小柄でふくよかなアンジェリカを見て、久しぶりに絶句しました。いやいや、でも可愛い。もう一組のゲストはアメリカ生まれで今はナポリで働いている40代のママで、結婚はしていないけれどももう孫が二人いて、今回は15歳の娘さんと初来日、大阪で食べ歩きをしていたのだけれど雨に濡れて風邪をひき、咳き込んでいる娘さんは何と葛根湯のドリンクを飲んでいます。

 二組は日本旅行の情報交換に忙しく、その間に背の高いクリスに、義父の大島紬を130㌔に対応できる巨大な着物に仕立て直したのを着せ、アンジェリカには最近頂いたカラフルな桜模様の小紋を着せ、あとから来たのに先に難なく着付け終了。ピンクの着物を選んでいたママはヒップがかなりあってどうにもこうにも前が合わず、こうなると振袖しかなくてちょっと不満げだったけれど、ヘアも何とか私がアップにして、綺麗な姿になりました。娘さんは15歳で細いのですが水色の振袖を選び、こちらはゆるゆるでかなり問題ありの着付けになってしまい、でもまだ足が痛む私はここで限界に達し、雨が降っているのでまず夫に頼んでトロント組を車で山本亭に連れて行って、次に私とアメリカ母娘を運んでもらいました。

 今回のゲスト達は、一緒に入る時にとても話が弾み、思ってもみないようなパフォーマンスをすることがあり、アメリカママが山本亭のレッドカーペットの上を歩くアンジェリカをスマフォを回転させながら動画を撮り、それが斬新でみんなで代わる代わる試してみたりするのです。私はお決まりの場所で写真を撮りながら、ゲストが求めているものや、特に私のところに来てくれるゲストの特殊な嗜好を考えた時、毎回思ってもみないような化学反応を起こすことがあることを強く感じています。

 今電車の中でも都心でも、着物を着た外国人があふれているから私のところも繁盛しているでしょうと聞かれることがあるのだけれど、何処でも着物が着られる今、あえてエアビーで着物を着るという体験をすることは選ばなくなっている気もするのです。特に予約した日が雨降りだったら悲惨なので、天気予報を見て直前に予約したり、その日にふらっと着物を着ようと思い立った方が気軽だと私でも思います。山本亭の後で帝釈天に行き、庭園や仏教彫刻を見せたら、クリスがとても熱心に写真を撮っているのが印象的で、結婚して10年、子供はいなくて猫を可愛がっているこのカップルの人生の楽しみ方というのが素敵だなと思えてきました。

 駄菓子屋さんでお土産をたくさん買ったアメリカンママと、買い物には関心がないクリスと、興味の持ち方は全く違うのが面白いのだけれど、駅前でそれぞれの好みのテイストの今川焼を買って食べながら電車を待ち、帰って来てお酒やビールや抹茶でくつろぎ、いろいろな話をしていると東京土産は何がいいかとママが聞いて、アンジェリカが東京バナナと即答したのが可笑しくて、私は脱いだ着物を干しながら笑っていました。サイズが合わないからママの着られる着物は限られてしまって申し訳無かったのですが、沢山棚に入っている着物を見たり、帯を見たりしたことが嬉しかったと後のレビューに書いてくれたママは、みんなで歓談で来たことも楽しかったそうです。

 クリスは寺の中をじっくり見られて良かったそうで、最後に握手しようとしたから私はいつものように強引にハグしたのだけれど、背伸びしてやっとできる感覚はうれしく、最後までカラフルなアンジェリカは今度来るときはもっと斬新な着物ファッションをしたいとレビューにありました。雨降りで、着物もサイズが合わず厳しい条件の中で、ゲストのパーソナリティの絡まり方が絶妙で、皆それぞれ素のままで楽しんでくれたことに私は少し安心しました。雨の帝釈天で会ったエストニアのグループの方々と少し話した時、遠くから来てくれるものだと感心しながら、スペイン語を教えてくれたカルメンさんが日本人の外交官の旦那さんとエストニアに赴任して、手紙に「こちらは寒くて、道で滑ってばかりいる」と書いてあったことを思い出し、エアビーのゲストでなくても、柴又で会った外国人といろいろな話をして行くのもいいなと感じています。

 二組が帰って、玄関のチェーンをかけながら、夫は世の中は様々な人たちがいるんだんあとつぶやいていました。本当にいろいろな生き方があり、人生があります。そしてすべての出会いがみんな一期一会なのです。昨日気功をして体のマッサージをしてもらってだいぶ良くなってきたものの、ティーセレモニーは当分できないので立礼で出来るよう机を運んでやり方を変えようかと思っています。できないことが増えてきた今、見直して考え方を変える時期だとも思えてきました。気候も全く定まりません。これからどんな風になるのか、かえって面白いと感じられてきました。新しいパフォーマンス。何かを変えるチャンスです。