柴又にある駄菓子屋さんの品ぞろえは豊富で、小さなお菓子やさまざまなグッズがゲスト達に好評なのですが、最近はジブリのキャラクターのものが多くあります。昨日メキシコがオリジンで今はユタ州に住んでいるゲストのカップルと中に入っていろいろ見ている時に、風の谷のナウシカの王蟲のブローチを見つけて、私は興奮して奥様のドナに「凄い、こんなものを初めて見た」と話しかけていました。
連休明けの水曜日、厚い雲が空を覆い、参拝客もあまりいない静かなお寺の中で、アニメやゲームのキャラクターのtatooをたくさんしている旦那さんのハビエルは濃紺の紬の単衣を着て、日本の庭園や仏教彫刻に興味深々でした。ドナはかなりふっくらしているので、夏物の着物の中で一番ゆったりとした、網代模様の麻の着物を着せ、この前頂いた夏帯を締めるととても素敵で、庭園のあふれんばかりの緑と着物の緑が調和して、この着物の良さを余すところなくアピールしています。これは京都の有名な着物作家堺映祥さんのオリジナル作品で、模様が多くあってなかなか買い手がつかなかったのを、とてもお得な値段にするから私に買うようにと半ば強要?され、これを着こなすのは難しいと思いながら、歌舞伎座に着て行ったりした後、エアビーのゲストでかなりウェイトがある方々が来た時使っているのです。
この着物がとてもよく似合うドナはチョコレート工場で働いていて、お父さんはメキシコ人でお母さんはアメリカ人、沢山の兄弟姉妹がいる大家族です。猫三匹と犬一匹と小さい家に住んでいるという彼らは、広大なユタ州に仕事の関係で住み、写メを見せてもらったけれど見渡す限り雪景色の平原が続いています。静かで何にもないところという彼らと話していて、イタリア人でフィンランド人の奥様とフィンランドに住むガエタノが、よくどこまでも続く雪景色の写真を何度も私に送ってくれることを思い出しました。沈鬱、抑圧、そんなことは言わないのだけれど、最近のゲスト達を見て思うのは、様々な違和感を抱えながら、それを何とか飲み込もうと努力している姿なのです。映祥さんの着物を着こなすには、人間的に凄い実力を持っていないとだめです。話しながら時々豪快に笑うドナは日本酒が好きだというので、帰り道コンビニで「浦霞」の小瓶とハビエルのためにビールを買い、小雨が降ってきて急いで家に帰って着物を脱いでからみんなで乾杯した後で、突然ドナが私にあの王蟲のブローチをプレゼントしてくれました。私が興奮してそのブローチを見ていたので、彼女はそれをそっと買ってきてくれた、なんて優しいんだろう。こうやって思いを伝えてくれるゲストが多くなりました。だんだん年取って来た私は、靴を履く時ハビエルの肩を借りて支えにしたり、よろけると手を取られたこともあり、皆に労わられてきて、だから寒いユタに住む彼らに着物を持っていてもらおうと、最近着なくなったピンクのバラの中振袖と男物の紬の羽織を包み渡した後、ハビエルと夫が外でタバコを吸っている間、ドナと5分間真剣トークをしました。
ビールを二杯飲んで、少し酔った私は、言いたいことがかなり言え、外国人に着物を着せてこの体験をしてもらうことが私にとってとても意義があり、様々なシチュエーションの中でいろいろな感情やしがらみ、立場を抱えたゲストが着物を着こなせるということがどんなに素晴らしく、誇らしい事かと言う思いを伝えました。ゲストとはいつも一期一会で、いつもこういうひとときは二度とないと思うのですが、でも私にとってこの瞬間が、着物を着た彼らの姿が私の作品であり、皆に伝えたい事であり、文化と言う誇りなのです。
電車の中でハビエルが宗教についての質問をしてきて、キーワードの言葉がどうしても理解できず、あとで仏教彫刻の前でもう一度尋ねると、モルモン教は日本ではどんな位置付けをされて居るかということだったのです。前に日本の大学に留学していて日本語の堪能な女の子が、帰り際に「私はネイティブアメリカンでユタ州に住みモルモン教です」と悲しそうに言ったことがあったけれど、宗教心はないという30歳のハビエルと、カトリックだというドナが、今住んでいるユタ州にはモルモン教徒がたくさん住み、布教活動をしているということに違和感を感じ、日本でも広まっているモルモン教を日本人はどう解釈しているかという質問だったようです。
あとで調べると、日本の芸能人でもモルモン教徒はいるし、仏教でもいろいろな宗派があって対立もあり、でも共存はしているのです。宗教が原因で起こった戦争もこれまでたくさんあったし、今も続いている、本当に何が正しくて何が間違っているのかわからない状態で世界は動いているけれど、ドナにもらった王蟲の眼は真っ赤で、そう怒っているのです。ナウシカによって穏やかなブルーの目になった王蟲は作られなかったのかもしれません。赤い目の方が綺麗で映える?ルビーのようだなんて一瞬思った私は愚かでした。でも私は小さい時から、何かに対して怒っていたのかもしれない、だから人と同じ道をたどることが出来なかった。だったらこれから王蟲の目がブルーになることをして行けばいい、その努力をして行けばいい、この王蟲のブローチはこれからの私の指標なのでしょう。ドナの気持ち、ハビエルの気持ち、それもこの中に込められています。