毎日気候の寒暖差が激しく、ガラガラ声の夫は風邪薬を飲んでゴロゴロしています。オランダ語でメールをくれた今日の24歳のゲストはかなりふっくらしているので何を着せようかと思いながら12時15分頃玄関のチェーンを開けていると、向こうからロングヘアで白い民族衣装のようなロングワンピースを着た女の子が、スマホを見ながらうろうろしているのが見えました。早いけれど暑いし、風も強いので、声を掛けてうちに入れると、流暢な日本語で「早く来てごめんなさい」と言い、英語、オランダ語、日本語少しとあと聞き取れない何語かを話す、高校の英語の先生だと言います。遠くから見るとインドの方のように見えたのだけれど、イランとかイラクとかトルコの話もするのでどうもよくわからず、日本語で言ってもらうと「私はクルド人でクルディスタン」だそうで、家族でオランダに住んでいるとのこと、私の頭では「埼玉のクルド人」事件のクルドくらいの知識しかなくて混乱しながら、初めての国のゲストに一番大きい赤の振袖を着せ写真を撮り抹茶を飲んでから、外は暑いので、ひで也工房の大きい浴衣を着せて、日傘をさして柴又へ向かいました。
肝心なクルドのことが全く分からない状態で、とりあえずいつもの質問を重ね、お父さんは70歳でタクシードライバー、背の高いナイスガイなのだけれど心臓病で、お母さんは五十代の小柄できれいな方、男の兄弟は何人かいて、可愛い甥が二人、でも女の子は彼女だけ、アパートに住んでいる、日本語はとても綺麗な言語で一番好きだけれど、カタカナはダメ、でも漢は少し読めます。吉本ばななや川上未映子の小説が好き、ロンドンの大学で勉強したけれど、最後はパンデミックでオンライン授業だったそうで、オランダの大学は難しいけれどロンドンの大学はそうでもない、オランダ人は無礼で粗野で、高校生を教えるのは大変だと言います。
二週間お兄さんと日本に滞在していて大阪や京都を回り、伏見稲荷に行った時はとても暑くて疲れたけれど、東寺は静かで素晴らしく、京都の和室のあるエアビーに泊まり、布団で寝て抹茶体験もし、明日オランダに帰るのです。
そこまではわかったけれど、肝心なことがまずわからず、今いろいろ調べわかったことは、クルディスタンはトルコ、イラン、イラク、シリアの四か国にまたがる地域であり、現在世界でもとりわけ政情不安な地域でここに暮らすクルド人は「国を持たない世界最大の民族」だと言えるのです。クルディスタンは独立した国家ではないけれど、約三千万人の民族、クルド人にとって、クルディスタンはリアルな存在です。中東に住んでいたことを除けば、クルド人がどんなルーツを持つのかはよくわからないし、クルド人が共通の宗教を信じているわけでもないが、はっきりしていることは、クルド人が民族としての独自性と共通の言語を持つことです。この共通の特徴が生まれた中世以来、クルド人は現在のイラン、イラク、シリア、トルコの歴史に関わって来たのです。クルド人の女性は強くて綺麗だというけれどその通りで、よく話すし向学心も旺盛で、家族思いで、シャイでプライドが高い一方で、一度心を開いてくれると義理人情に厚くて日本人ぽいところがあるのです。
オランダやドイツやカナダに移住しているクルド人も多いそうで、面白かったのが私が今まで来たフランスやドイツのゲストの話をしていた時、オランダ人はフランス人やドイツ人が好きではないと声を潜めて内緒話のように言ってきて、私は一体どこの国のゲストと話をしているのだろうと思ってしまいました。それにしても、最近来るゲストは私が今まで聞いたこともない国だったり、会ったことがない民族の方だったり、びっくりすることばかりですが、彼らを知ることで新しい考え方ができる気がしています。知らなかったことを知る、新しい景色を見る、身体を透明にして、すべてを受入れるスタンスはこれまでと変わらないのだけれど、歩いている道が何処へ向かっているのか、見えてきている気もするのです。真っ直ぐに、まっすぐに。膝の不調を必死でケアし、足腰に効くという仏足のお守りを買って身につけ、どこかに向かって突進していく目の赤い王蟲のブローチを持って、明日UKから来る29歳のカップルのゲストを迎えます。さあ、何処の国の方でしょう?