世界が変わる 世界を変える

 二日続いてゲストが来るので、私の足がもつか心配でスマホで「膝が痛い」と検索したら、整形の専門家の運動の動画がたくさん出てきて、簡単なストレッチなのでベッドの上で少しづつしているとだいぶ動くようになりました。今までゲストが多かった頃、気力で乗り切って来たけれど、それだけではいろいろ弊害が出てくることがわかり、気を付けなければならないことが増えてきました。今日はグルテンフリーについてのサイトを見て、それにも注意しなければいけないのかとちょっとため息が出ます。でもやってみて、具合が良くなればその方がいいし、そういえば最近グルテンフリーだと言って、菓子類やスナックに手を出さず、参道でお団子を買おうとしたら原料は何かと聞かれ、米粉とお店の人が答えてくれたことも思い出しました。

 昨日はUKから29歳のカップルが予約してきて、女性のプロフィール写真がアジア系だったから、中国かなベトナムかな台湾かなと思って待っていると、あらビックリ、定刻に金髪のカッコイイ男性と黒髪の東洋女性が現れました。日本にはかなり長いこといて、北海道、名古屋、神戸、広島など色々回り今週末に帰るそうで、二人ともデンティスト、お医者さん一族の家系で、彼のお父さんはシリア、お母さんはルーマニア、彼女は中国系で家族はマレーシアに住んでいて婚約中、来年マレーシアで結婚式を挙げるそうです。これまでデンティストのゲストはたくさんいて、一族でやってきた時はちょっと会話が弾まず同職だけだと世界が狭くなると感じたことがあったのだけれど、今回の彼らの血筋は多国籍で、イギリス人でない雰囲気(失礼!)で、フレンドリーでオープンなのです。マンチェスターの近くの町に住んでいるそうで、イギリスに行ったことのある夫とは話が弾み、本当に良く話し気遣いをしてくれる優秀なカップルです。割と涼しかったので日本人のような顔立ちの彼女は薄いブルーの振袖に清楚な帯を締め、淡い感じの着物姿で柴又へ出かけたのですが、とにかく細身で、ちゃんと着せるなら補正をして伊達締めをアクセントにすればよかったと、外に出てから反省、でも性格なのか控えめが好きなようです。

 クルド人の女の子が、なぜ外国人に着物を着せるのか?と尋ねた時に、私にとって着物はツールであり、それを着せて出かけて外国人とする会話や、彼らが見せる感動や喜びは、日本人に着物を着せた時には決して味わえないものだと答えました。わからない言葉や会話が続いても、何とか理解しようと努力し、これまでの経験という引き出しを片っ端からあけて、相手の解釈に近づけようと頑張るのだけれど、昨日のカップルはとても透明で、沢山の国々を旅行しながらいろいろなものを見ているのに、いつもピュアでまっすぐな視線を全てのものに投げかけているのです。彼はイギリス人ではない、でもイギリスに住んでいる、だから夫ともこんなに楽しく話をしているのでしょう。

 エアビーの仕事を始めた時、イギリスの女性がボーイフレンドと来ていて、一緒だったゲストがインドのファミリーでテンポが違うせいか、とことん彼女とは話すことができず、レビューに「何かが足りなかった」と書かれたことがありました。あれから5年以上たち、コロナ禍の自粛もあり、いろいろなことが変わっていきました。ユーチューブの動画には、異国で国際結婚をして働く日本人のリアルな生活や苦しさがあげられ、世界の貧困地域や危険な国の中に入って現状をリアルに教えてくれるユーチューバーもいます。

 日本人は礼儀正しく親切で正直だと外国人たちは口々に言います。小さな島国で江戸時代は鎖国だったし、皆同じように考え同じようにしなければいけないという教育は、私にはかなり負担で、でもだからと言って何が正解だかいまだにわかりません。ただたくさんの外国人と接触できる仕事に巡り合い、各地から寄せられる沢山の着物を着せて、素晴らしい仏教彫刻のある小さなお寺を案内するという今私にできることをもっと突き詰めていくことはできるという気がしています。自分にとって何が良くて何をすることが素晴らしいと思えるのか、それを突き詰めて提示して見ろと自分に問いかけます。

 着物を着た外国人のファミリーがなぜ神々しいまでに綺麗だったのか。着る人間の品格、人間性、歩んできた道のり、迷い、悲しみ、文化、民族、宗教、悩み、苦しみ、そして喜び。うちの着物は職人さんの優れた技術が現れている、お寺の仏教彫刻には彫刻師の魂が刻まれている、仏教の中にはお釈迦様の救いが込められている。私が高齢になって、晩年になってやっといろいろなことが結びついてきたことを感じています。そしてここにやって来るゲスト達が引き寄せられる魂が、私の体験の中にあるような気がしてきました。人智を超えた引き寄せがある。

 世界が変わっていきます。世界を変えようとしている人たちがいます。その姿を追いかけて行きます。