桜が真っ盛りの季節に運よく日本に来たエジンバラからのゲストは40代、高校の同級生でベストフレンドだそうです。桜の季節に桜模様の小紋をしっとり着たパメラの愛犬の名前はMercy、教えてもらった時、その言葉が深く私の胸に響きました。慈悲。この女の子は凄い名前を付けていると思ったのです。最近来るゲストの中には夫はいないけれど子供や孫までいる44歳の女性など未婚の母が何人かいて、反対にゲームのサイトで知り合って会ったのは二回目、ただの友達でホテルも別々というカップルも来るし、よくわからない恋愛事情です。エジンバラ組はピュアな独身組、パメラは教師で子供たちと接触するのが好きで、休みにはmercyと海辺で遊んでいる写メが清々しく見えます。
何回か私の足の治療に来てくれた方が、一応昨日で終了とのことで、頭のてっぺんから足先まで、マジックハンドを駆使して施術して下さいました。自分も両膝の手術をして金属を入れ、リハビリに通っているのに、汗をかきながらマッサージし、いろいろな原因を説き起こして治るように唱えているのを目をつぶって聞きながら、私は慈悲ということを考えていました。息子が所属していた少年野球の監督夫人だった彼女は、試合でけが人が出ると休日でも夫がすぐに駆け付けて処置してくれたことをいまだ感謝していて、だから私が膝が痛いと偶然会ったスーパーで訴えた時に、すぐ行ってあげると言って下さったのです。
ただ膝が痛いのではなく、その原因は幼少時の病気、ケガ、結婚してからの疾病、白内障などいろいろな原因が絡まって体が歪み、その痛みが集約されて膝に出たのだから、ただ膝だけのケアをしたりクスリや手術をしても治らないと言われ、これまでの生き方すべてを考え反省するけれど、この晩年になって残された日々を生きるには何が必要かと考えた時に「慈悲」という言葉が浮かびました。今朝ユーチューブを見ていて、スウェーデンの学級風景で転校生がうさぎのお面を付けて入ってきて座った時にうしろの男の子がふざけてそれを取ったら、顔に大きな茶色のあざがあって、その女の子は長い髪でそれを隠してうつむいてしまったのです。いたずらした男の子はすぐにペンを取って自分の顔にペイントをはじめ、周りの子供たちも次々にカラフルな模様を自分の顔に書きだし、そして次々に彼女のところに来てハグしはじめました。この動画は多分作られた物かもしれません。でもこういう感情や発想を持った人たちがいる、そしてその根底に流れるのがmercy だと思えるのです。
リベラル国際秩序は崩壊寸前と書かれた日経新聞の記事の見出しを読みながら、古い秩序が崩壊した後、私達はどんな新しい世界を作り出すことが出来るだろうかと考えます。地震などの災害、気候変動は私達をいつも脅かし、昨日と同じ時は二度と帰らないかもしれないという覚悟はとうに必要なのだけれど、何を武器にすればいいのかと思っていた時、萬福寺のご住職のお通夜から夫が帰って来て、とてもたくさんの人たちがいらしていたと教えてくれました。義母の葬儀の時、一時間弱ご住職と息子さんと同じ席にいて、普段なら話さないことをお聞きし、私が曹洞宗の葬儀についてまとめたものをお見せすると最後まできちんと読んで下さり、後日には曹洞宗の禅について書かれた英訳の小冊子を10冊、奥様に託され、いただいた形見の品を、私は和訳し、簡単に英訳し直そうとしています。正しい知識は武器です。この柴又にある仏教というものを知識としてゲストに差し出す助けとなるものを、住職様は最後に残して下さいました。
パメラの愛犬Mercy、慈悲、何か思い出すものが在ると考えていたら、手塚治虫のブッダというマンガの12巻に、最後にブッダがたどり着いた悟りが「慈悲」だとあったことを思い出し、そのページを開けて読んでいます。「誰もかれも生きとし生けるものは繋がって居る。だからあなたが誰か苦しんでいる人のことを憐れんだ時、同じように別の人がきっとあなたについて憐れんでくれるはずです。あなたが誰かを助けたら、別の人が今度はあなたをきっと助けてくれましょう。相手のことを思い、相手のために苦しむこと、これが慈悲なのです。」
私の痛む個所や古傷のあったところにじっと手をあて、念じてくれていた時の温もりを、大事に覚えています。私の着物たちの温もり、ゲスト達を包む温かさも、慈悲なのでした。