ファイテン  2023年10月6日

二日間お休みだったので、銀座へ行ってファイテンの磁気ネックレスとお肌を引き締めるローションと、雪肌精の化粧品を買ってきました。いいお天気で、銀座には外国人がたくさん歩いていて、本屋さんで雑誌を見ていたら、会計をしている外国人に対して、店員さんがあまりに綺麗で流暢な英語で対応しているのに感心してしまいました。レベルが違う!と自分のボキャブラリーの貧困さを恥じていると、会計の終わった外国の男性が「あなたの英語は素晴らしい」と褒めているのが聞こえ、世界的レベルだなあと感心しつつ、自分の携帯番号さえ時々忘れてしまう私の脳みそは、新しい言葉など受け付けなくなってきているのです。最近はいかに自分の言いたい事を難しくない英語で簡単に話せるように転換することに重きをおいていて、帰りの電車で二人連れの可愛い外国の女の子が、座席を白髪の男性に譲ったら、彼はニコニコしながら断り、そのすきに日本人の女の子がすっと座ってしまい、せっかく席を譲った二人が気まずそうに立っているので、おせっかいな私は雰囲気を和ませようと「あなたはとても親切ね。だけど彼はとても強いのよ」と、相変わらず適当なことを言いながら、何処から来たのか、どの位日本に居るのか少し話しました。

 話し出すと止まらなくなる私は、今日はホスティングしているわけではないと自制し、席を譲られた男性と少し話しをすると、彼の娘さんはアメリカ人の男性と結婚してフロリダに住んでいるけれど孫はだんだん日本語を話せなくなり英語だけになってきたのだそうです。でもアメリカは今ホームレスがとても増えて危険になってきたので、将来は日本に住んで欲しいけれど、言語も文化もわからないと心配しています。サンフランシスコから来たハネムーンのカップルもしきりにホームレスのことを嘆き、ホームレスの数まで教えてくれ、なぜ日本には数えるほどしかいないのか問われたのです。そういえば彼らはユダヤ教でした。

 今だいろいろ宗教について考え続けている私は、以前英語が達者な次女の同級生の女の子にホスティングの手伝いをしてもらったことがあり、その時に彼女は宗教についてどう考えているのか後で教えてと頼んだことがありました。若い子らしく、そんなもの関係ないとか興味が全くないと返ってくるのかなと思って楽しみにメールを待っていたのだけれど、答えは…無視でした。真面目で優秀でお母さんも子育て孫育てを一生懸命している方々だから、私には無視というか、宗教について考えるなどという思考回路が全くないということにかなり衝撃を受けたのです。人生はいろんなことがあり、計算通りに行かないことがたくさんある。みじめで落ちこぼれて不本意で、という時に、自分の心を繰り返し見つめるということのきっかけとして、世界中に色々な形の、いろいろな思いの宗教があり、神があり、自然がある。世界中を回って旅をしているユーチューバーさんは、何の保証もない生活であろうけれど、自分の感受性と方向性を持って、世界のありさまを発信しています。髭を生やした34歳の彼はビールやワインをたくさん飲みながら、ゲストが住んでいるいろんな国の風景を見せてくれるので一生懸命見ているけれど、何処もきれいな街で、危険も多いだろうによく無事で旅していると感心しています。

でもコロナ以後、人生何が起きるかわからないことを強く感じていて、大量に打ったワクチンがこれから人類にどんな影響を与えるのか不明な恐ろしい未知の世界を今歩んでいる私たちは、でもあらゆる叡知の恩恵を受けそれを大事に道連れに、真っ暗な闇の中を進んでいる、村上春樹の小説に今までしきりに出てきた“やみくろ”という不気味な生物は、いたるところにいて罠をしかけ、隙あらば相手を滅ぼそうとしている気配はそこここに漂っています。

金曜日の夜放映された堂本光一さんと羽生結弦選手の対談はとても面白くて、啓発されるところが多かったのですが、二人とも自分を極限まで追い詰めて表現技術を追求しているやり方が凄まじく、限界まできて疲れ果てもう何もできないという時に出てくるオーラが最後に人を感動させるのかもしれない、だから技術を磨き、体を鍛え考え続け、極限を目指すというのです。そういいながら、「何を目指しているのだろう?」と互いに言い合っていて「本当に疲れているのだけれどどんどん体が使えて来て、あー美しいなって見ている方はなっていくし、人間て不思議だけれど、だからこそ人間なんだ、だからこそ人間って素晴らしいよっていうところを見せつけられている。自分がやりたい事とか、自分が表現したい事は何とか手応えとして伝わるようになってきて、でも自分の理想像ってすごい難しいし、立ち止まって何もしていない姿で見せるって一番難しい。立ちから発せられるメッセージ性、すべては伝わってないかもしれないけれど、それがかっこいい、美しいという風に感じてはいると思う。ちょっとずつなんだけれど、でもこれだから表現はやめられないと思う。」

なんだか大事な音は叩かないというか、それをわかってもらえなくても追及することで、その気配を醸し出せるのは人間だけ、優れた人間とは、極限まで追い詰めた先で何が言えるかということなのかもしれません。何かを表現したいと、音楽や美術や文学やスポーツや、いろいろな分野で人は努力しています。私は努力家だと言われることがあったけれど、それが報われることは今までなかった、才能や向き不向きもあるだろうけれど、例えばコーラスが好きでみんなと歌っていた時はよかったけれど、欲が出てもっとうまくなりたいと個人レッスンを始めたころから空回りの努力をし続け、歌うことによる表現というものが全く分からないことに気がつき、やめました。あれから何年たったのでしょう、私はやっと努力とは自分のためにするものではないことがわかります。

昨日来たシンガポールのNTTで働く三十代の男女三人は今まできたゲストの中で一番騒がしくて、かしましく着物を選び写真を撮り、喜びを前面に表し続けたのですが、急に予約してきたパキスタン人のカシムは幼少期を日本で過ごし、今はトロントで働く44歳のシングルボーイ、日本が懐かしくてバカンスで来たものの、ちょっと寂しくなって私の体験にやってきたのです。どちらかというと暗い複雑なタイプで、酒が好き、着物は濃紺の素敵な紬を選んだものの、外へ出るのは恥ずかしいから、お酒を飲んで心をハイにしたいというから、ティーセレモニーの前に少し日本酒を飲ませてあげると納得させました。この正反対の性格のゲスト達をどうホスティングするか、私の頭は混乱したのだけれど、女性陣を着付けている間、シンガポールの男の子がずっとカシムと話してくれ、男同士の話が尽きず、刀を持って二人で切り合いをする動画を女の子たちが撮ってあげたり、なんだかよい方向に進んでいます。

 最近待合室に長年掛かってあった大きい絵の紐が切れて落下し、ガラスは割れず床に小さいへこみができ、それからあやさん人形がインドへ旅立ち、対の男の子の市松人形が一人になって、隣に華やかな八重垣姫の人形を置いています。ミスマッチな気もするけれど、違ったタイプの女の子も面白いかなと思って毎日見ています。そうしたら、ティーセレモニーをする前にあやさんの振袖の袖をほどいて額に入れて飾ってあったのが、突然棚から落ちて見事に割れてしまったので、これは何の象徴なんだろうと思いながら、段ボールにガラスの破片を入れ、掃除機をかけてみんながケガしないように片付けをしました。何が起きても、私はゲストを四時間もてなすためにあらゆる努力をします。何も考えずひたすら掃除をし、終わって皆にお酒から始まるティーセレモニーを説明しつつ飲んでもらい、最後にカシムにお茶を点ててもらいました。

柴又へ出かけたのが遅くなり、お寺の中は入らず山本亭へ出かけ、はしゃぎながらシンガポール勢はカシムとも良く話し、廊下の赤いじゅうたんの上を歩く動画を撮り合ったりおかしなポーズをしたりして、電車の中では話すことはいけないのかと聞いてくるようなカシムの倫理感はだんだん崩れて来て、帰り道は雨がぽつぽつ降ってきたので急いで歩き、電車を待つ間駅前で買った今川焼をホームで食べました。今度はシンガポール勢がホームでものを食べていいのか聞いてきて、大丈夫と座ってもらい、あんこ、カスタード、チョコレート味を回し食べしているシンガポールと、トマトカレーチキン味の今川焼を美味しそうに食べているカシムの姿を見ながら私はほっとしました。

駅で傘を買い、シルクの着物を着ているからゲストは濡れないようにして家に帰りつき、最近頂いたばかりの帯揚げやカラフルな伊達襟をプレゼントし、明日は大阪でお酒を飲みながらサルサを踊る体験をするというカシムが先に帰るのを呼び止めて、ハグして別れ、その後を賑やかにシンガポール勢は帰って行きました。両方が別々の日だったら、これはしんどいホスティングになったかもしれない、流暢な英語で話し続ける彼らを見ながら、日本で幼少期を過ごしたとはいえ、いろんな思い出があるであろうカシムにとって、多分この混乱した4時間は良かったと思うのです。結局優しさとは、誰かを思いやることで感情を正確に相手に伝え、共感を呼び、心を動かすことができる力なのでしょう。相手のことを想い続けること、自分自身には進むべき道があって、そこに向かって全集中できるようになると、周りを見なくなっているからこそ、周りを見る余裕が出てくるような気がするという、あるカメラマンのコメントがありました。

ずっとファイテンの磁気ネックレスを付け、美容師の寛子さんが勧めてくれたレモンイエローのホノルルで売られているTシャツを着てホスティングをしています。胸に書かれた文字はこうです。「No rain No rainbow