膝の水

 義母の納骨を3月30日に済ませ、仏間を片付けていつものような日々が始まり、カレンダーをめくって4月になった途端、右膝が腫れて曲がらなくなり、激痛が走るようになりました。夫に膝を見せて湿布を張ってもらい、包帯で固定して様子を見ていたのだけれど一向に良くならず、整形に行くべきか迷いながら6月になってしまいました。ずっと整骨院をしていて沢山の膝痛の患者さんの治療風景を見てきたけれど、加齢ですり減った関節がすれて生じる痛みは低周波の電気をかけてもマッサージをしても治らないで、手術をすれば劇的に良くなるけれど時間が経つとまた悪くなる事例もあり、結局「年だから」という言葉が一番正解なのは、今つくづく感じることです。

 YouTube全盛の今、ネットを見ていると沢山の理学療法士や整骨師が膝の痛みを改善する方法をあげていて、教員をしていた夫が教えたであろう彼らの言うことを取捨選択しながら聞いて、簡単な体操をしたり、気功をしている方のマッサージを何回か受けていろいろアドバイスを受けました。街を歩くと多くの高齢者が杖を付いて歩いていて、私だけじゃないんだと思いながら、先だって意を決して駅前の新しく出来た医療モールの中の整形に行き、レントゲンを撮って膝のたまった水を抜き、ヒアルロン酸を注射して、リハビリの予約をしてきました。長年使ってきた膝関節はすり減って痛みが出るのは当たり前だと言われたのだけれど、手術とかではなく膝に負担のかかる歩き方をしていたのだから、使わないでいた筋肉を少しずつ鍛えて、改善していくという方向で行くことになりました。

 広い待合室で待ちながら、50年間続けた義父や夫の作った整骨院は時代遅れかもしれないけれど、骨折を手術することなく無血で整復するという技術は優れていたし、これも文化だったと思うのです。この整形外科では骨折してきても直してはもらえず、手術出来るところに回されて入院するのだろうし、実母が80歳過ぎて大腿骨を骨折した時は、手術後すぐ丈夫な足のリハビリをして衰えないようにしているのを見た私は正直負けたと思ったのです。自宅で布団を敷いて寝ている骨折した高齢者を往診して治していた時代は、家族が家にいて四六時中面倒を見ていたけれど、時代の変遷を見ていると、早めに夫は仕事を辞めて、彼の矜持を守って良かったのだと感じます。

 私の体のことに関心を持たない夫は、整形の治療についてもノーコメントを通しているけれど、膝の水を抜いてもまた溜まり、それを繰り返しても良くならないと前から言っていたので、さあこれからどうしようと思ってまたYouTubeを見ていると、関節がすり減って痛みが出ている時に、そこを守るため膝に水が溜まるので、関節に負担がかからない正しい歩き方をしなければならないという動画があって、面白いなと思って見ています。整形でも使わないでいた筋肉を鍛える体操を6種類書いたパンフレットをもらい、毎日しっかりやるようにいわれ、仕事をするときは柴又をかなり歩くので、それもリハビリになるように気を付けて行けば少しは改善されるのかなと期待しています。

 ドイツのアントンがドイツ語でレビューをくれ、翻訳して読むと「いくよさんと彼女の夫は愛情深いホストで、私が今まで会った中で最も素晴らしい人たちです。私たちは歓迎されていると感じました。育代さんの助けのおかげで、私たちは観光客ではなく地元の人のように感じました。写真を撮りながらの寺院への浴衣散歩は特にハイライトでした。ありがとう!」ドイツ人と結婚してドイツに住む日本人女性のYouTubeを見ていると、スーパーでもお店でもかなりクールで不愛想なスタッフが多くて悲しくなるとあって、ドイツは寒いし暗いし、アントンたちを見ていても真面目でかたくなな印象を受けるので、私はなるべく「アントン」と名前を連呼しながら、心が明るくなるようよりかまったり、参道の知り合いに紹介したり褒めてもらったりしていたけれど、そういう体験は彼らは初めてなのでしょう。

 それにしても暑い日が続きます。このまま気候がどうなるか、全くわからない。私の膝も、どうなるかわからない。今すべてが真っ暗闇の状態になっているのだけれど、手探りで自分だけを頼りに、与えられたスキルや文化の美しさやみんなの温かい微笑みを糧にして、新しいものが生まれていくのを見て行けるのは、幸せなことだと思っています。