テレビ大好き人間の夫は、食事時いつもテレビを付けてご飯を食べるのだけれど、日本の殺人ドラマや時代劇ばかりで、正直私はうんざりしていました。ところが最近彼は韓国ドラマにはまり、医療系や商人の一代記が面白くて私も楽しみに見るようになり、改めて韓国の歴史や風土、食事風景など知ると、今までゲストで来た韓国人に違和感を抱いてはいけなかったと反省しつつ、無知とか無関心でいると私の仕事は息詰まると自戒しています。韓国の次に始まったのは明の時代のスペクタルドラマで、最近柴又にやって来る着物姿の中国人の振舞にあきれていたけれど、共産主義になる前は文化も教養もふんだんにある素晴らしい国家だったのだと、改めて知りました。
私のところに来る中国系のゲストは優秀で、漢字も読むしおしゃれ感覚も独特で商才にも長け、事業家の義母の甥御さんが中国人のグループとケニアに行ってゴルフをした時に、「中国人になりたい」と言っていた気持ちもわかるような気がします。すべてに疎い私は沢山の国から来るゲストのおかげで世界地理が感覚としてやっとわかるようになり、夫に馬鹿にされながらゲストが来る前に一生懸命地図を見ています。この前来たドイツ人のアントンの奥様が、実家の家族とアフリカのナミビアの小さな島にバカンスに行った話をしていて、安かったからというのでナミビアを調べると、資源は豊富だけれど砂漠が大半でオットセイがたくさんいる地区が有名だそうです。
ゲストの話から、いろいろなことを知り、ユーチューバーの動画で追体験して見ると、世界は広いなとあらためて思うのだけれど、テレビ番組にしても海外ドラマは字幕付きのイギリス制作のものが英語がわかりやすいし、生活や文化の厚みが面白くて、おとといは「名探偵ポアロ」さんを見てしっかり録画しました。ベルギー人のポアロさんがスコットランドのバンカーに蔑視されながら事件を解決する話だけれど、ポアロ役の俳優さんはイギリス人で父方はユダヤ系リトアニア移民で南アフリカ出身、母方はユダヤ系ロシア人でイギリス人だそうで、こういう複雑な血筋の彼がベルギー人のポアロになりきって演技しているこのドラマは本当にためになります。
ヨーロッパの政治状況の影響で昨日は株価が大幅に下がり夫は頭を抱えています。先だって日経新聞に、イタリアの女性首相メローニさんについて書かれた記事があり、サミットで来日した時金髪できれいで若い女性が首相なんだとびっくりしたのですが、その時イタリアで大規模な災害があり、予定を早めてひとり先に帰国した行動がとても強く印象に残りました。イギリスのスナク首相が宮島に行った時、身を乗り出して建造物を熱心に見ていたのも印象的だったのだけれど、政治は観光ではない、真剣勝負だというのが今の時点での彼らの政治的地位の優劣を表している気がします。
子供の時父親が失踪し、母親と祖父母に育てられたメローニさんは15歳で右翼団体に入ったため、2年前に首相に就任した時は危ない極右政治家と見られていました。でも彼女が目指しているのは英国の保守本流を歩んだサッチャーさんのような路線で、反EUやロシアとの融和には動かず、ウクライナ侵略にも決然として反対し、米英独仏と結束しています。彼女の政治戦略はイタリアの保守政界を束ね、欧州議会で一定の勢力を築き、その上でEU内で影響力を強め、独仏主導の権力構造をジワリと変えていこうとし、実際その通りになっています。欧州エリートが嫌いなトランプさんにしても、極右出身のメローニさんとなら相性が合うといい、政治的理念を明快に語るメローニさんの力量を日本の岸田首相も評価しているのです。
うちに来る学生のゲスト達はコロナ前、コロナ禍中、コロナ後とタイプが違ってきています。突然「安倍晋三は好きですか?」と聞いてきたシンガポールの双子のお兄ちゃんの質問にびっくりしたのはエアビーの仕事を初めてすぐの頃で、ドイツで政治を勉強したいと言っていたけれど、どうしている事かと思います。でも平和で安全な日本で安倍氏は狙撃され亡くなり、それを日本人はあまり悼まなかったという妙な後味の悪さが今も残り、彼の古典的な政治手法が好きだといった外国人の男の子のほうが、政治というものを理解しようとしていたのです。
コロナを経て生き方も考え方も変えなくては生きていけないのに、欲にまみれた人間たちは己の利益のことばかり考えて悪辣な仕事を重ね、気が付けば歯車は逆回転してどんどん自分の首を絞めているという事実が、次々に明るみに出てきています。眼科で薬をもらおうと処方箋が出るのを待っていたら「薬が不足しています」という紙が貼ってあります。何でだろう、戦争中でもないのにと不審に思って日経新聞を丹念に読んでみると、ジェネリック医薬品の品切れが頻発するようになって3年以上たつそうで、医薬品は安定的に供給されるという神話は崩壊の危機だというのです。ジェネリック医薬品メーカーは中小企業が多く、想定外の事態が起きた時の生産余力が乏しくて、生産能力を上回る発注による出荷停止が玉突きのように様々な薬へ広がっていっています。
今朝経済ニュースを見ていたらこの問題に関する特集をやっていて、大きな会社の社長がこの問題を憂慮しているとコメントをしていて、名前を見ると高校の時の同級生で、実業家として成功し70歳の今も現役でいるけれど、抱えている問題も大きいんだろうなと感じています。本当にすべてのことが憂慮すべき問題を抱えていて、大きい会社、産業、メーカーだからと言って安全な商品を決して作り出していない、私は今までゲストに日本のコンビニやスーパーの素晴らしさを誇っていたのだけれど、添加物や製法など、かなり危険なのに放置されているものが多いと知り、もう何も言えなくなってしまいました。
何が信じられるのだろうと悲観的になった時、AI時代に一番必要なもの、どう向き合っていくかという問いの答えは「リベラルアーツ」だというコラムを見つけました。ああ、やはりここに戻っていくのです。必要なのは幅広い視野と長い時間軸で全体を俯瞰して考える概念的思考力、先入観にとらわれない批判的思考能力、問題の本質を見極めた上での問いの設定力で、その際には歴史学、哲学、倫理学、心理学など学術的なアプローチが有効となり、そこで養われるリーダーシップやコミュニケーション力こそが大事なのです。
ポアロさんの番組を見ていると、イギリスの重厚な歴史や生活、佇まいの中で、ベルギー人のポアロさんがリベラルアーツを駆使して問題を解決していく姿に、ヨーロッパのエッセンスを感じて幸せな余韻に浸れるのです。メローニさんもこれからどんなどんな政治力を発揮していくのかわからないけれど、まっすぐにものを見極めて正しく進んでいくことが出来るのではないか、うちに来た何人かのイタリア女性のことを思い出すと、おしゃれでユニークでしっかり自分を持っていた気がします。正しい見本があることが今本当に求められています。