六月に義母と日本に行くから会いましょうと言っていたアシュレイが日本に来ているのに、私達は会うことができないでいます。スウェーデン人の83歳のお義母さんはアシュレイにとってやりにくいタイプのようで、雨も良く降るし湿気も多い日本はあまりお気に召さないのか文句ばかり言っていて、文化にもあまり興味を示さず、今は京都観光をしているけれどアシュレイはかなり苦戦しています。彼女は「mean」だとあって、スマホの翻訳で見たら”平均”とあり、パソコンのグーグルで調べたら”意地悪”と訳があり、両方の意味があるけれどアシュレイの言いたいのは「いじわる」なのだと、さんざん嫁姑で苦労した私は納得しています。
それにしてもAI翻訳というのは、難しいものだと感じてきて、子供たちが使っていた古い英英辞典を出してきてめくりながら、処分しなくてよかったと思っています。瞬時に答えが出てくるのはいいけれど頭に入らないし、納得しないうち次の場面に行くというのはいい事ではない。ペーパー世代の私は、老眼鏡をかけながら細かい辞書の文字を見た方が納得しやすく、簡単にスマホで検索出来てもそれが本当に正しいのか疑わなくてはならない時代になっていることに、恐ろしさを覚えています。
梅雨に入ってからゲストが続きます。土曜日はハワイからの家族連れで、リーダーの男性と何度も細かい確認をメールでしながら、自分が着物を着ない場合の予約は、それをみんなが楽しめるかどうかという責任感を感じていることが多く、特に大人数の場合はお金もかかるから、よく私のところに来てくれるなと感謝してしまいます。良い天気になった午後、家族が現れたので玄関に出ると、まあ大人数で同じ身長の小さい女の子が3人、40代の夫婦と奥さんの姉妹、それにおばあちゃままでいて計7人、慌てて椅子を補充し、みんなの名前を聞いたけれどまず覚えられず、私はパニックになりました。リーダーのレイドは日系で沖縄にルーツがあり、目の大きな消防士さんですが、旅も終盤に近付いた様で疲れが見えています。メルカリで買った120㎝のカラフルな浴衣に兵児帯を締め、七五三用の草履にバッグ、扇子を持たせ、髪飾を付けて口紅をさすと、三人とも可愛い女の子に変身、親たちは着付けの時からたくさん写真を撮って喜んでいます。レイドやおばあちゃんにもサービスで浴衣を着せ、集合写真を撮ってから、おばあちゃんだけ私服にしてもらって、みんなで柴又へ行きました。駅では何と別行動をとっていたおじいちゃんが待っていて、浴衣姿の孫たちを手を広げて抱きしめ、こちらは広島にルーツがある日系でおばあちゃまは太極拳が趣味の中国人、大学時代の同級生で私と同じ70歳です。
男の子の孫はお父さんとポケモンを見に行っていて、総勢10人、デズニーランド、デズニーシー、ラボ、キッザニアと回っている様子をスマホで見せてもらい、初めての一族総出での旅行を楽しんでいますが、レイドの奥さんは気を使うタイプで、常にスマホで別行動の家族と連絡を取り合い、お茶やお菓子を勧めても遠慮しています。女の子たちはかしましくしゃべり続け、柴又でもたくさん写真を撮り、仏教彫刻などはスルーして駆けていてしまったけれど、私はおじいちゃんと仏教の話をしながらじっくり見て回って、家族だからばらばらに離れてもいいけれど、大人数のホスティングは難しいなと思っていました。鼻緒ずれができた女の子をおじいちゃんがおんぶして、早めに帰り、浴衣を脱いでみんなでお団子を食べ、夫と株の話で盛り上がるおじいちゃんに浴衣を着せて孫たちと写真を撮り、おばあちゃんには綿の部屋着浴衣をプレゼントして無事終了、レイドはこれからみんなを連れてくら寿司に行くといいます。
4人の予約だったから、レイドと奥さんは追加料金を払うというけれど、子供三人は簡単だったし、私も夫も大人数を引き連れて頑張っている彼らを見ていると応援したくて、サービスでいいよと断りました。男物の浴衣を着せるのは簡単だし、皆さんの好意で頂いている浴衣や着物を着せてこんなにも喜ばれ、そして似合う姿を見ていると、日本の文化というのは優れたものだなのだと思うのです。文化の異なる中国人のおばあちゃんだけはちょっと違う感覚があるのだけれど、それがこの一族のアイデンティティーの特徴となっている気もします。
夜に来たレイドからのレビューには、子供たちを日本の文化に触れさせることが出来て嬉しかったし、私が誇りを持ってこの仕事をしていると書いてあり、何処の親も自分の子供のことを一生懸命考えているんだなと改めて感じました。浴衣を着て扇子で仰ぎながら腰かけて英語でおしゃべりし続ける日本人ぽい顔立ちの子供たちを見ながら、言葉というのは生活の中の一部であり、コミュニケーションをとるために色々な言語が話せるのは素晴らしい事だけれど、自分でとことん考える時に使う言葉とか言霊というのは魂であり、命なんだと思うから、それを大事に育めることを前提に、多言語を使っていければいいと思うのです。レイドの期待に沿えたかどうかわからないけれど、日本人の血を引いていても日本語も日本の文化も遠い存在でしかないというゲストが最近多くなってきて、何が求められるのか迷う時に、皆さんからいただいた高品質の着物や紬、そして作家物の浴衣などは、外へ出た時その価値がよくわかり、道行く人から感嘆の声を掛けられることがとても意味のあることなのかもしれません。文化というのは過去の継承であり、そしてそれを未来へつなげ見た時に感動してもらえるには「いいもの」でなければならない。個々人の価値観も好みもそれぞれ違うから押し付けることはできないけれど、それがいいものであることが大事なのです。
アシュレイは価値観の違う義母さんとずっと一緒にいて苦戦しています。私は何十年も一生暮らした義母と価値観が合わず、ずっと苦戦していたから、アシュレイの辛さがよくわかるけれど、これも文化の違いなのでしょう。4時間限りのゲストとの付き合いでは、何か一致できる手掛かりを探してあらゆる手を尽くすけれど、それでもダメな時は無理でした。
昨日の雨は上がり、今日はいいお天気だと喜んでいたら、気温が急上昇して真夏のように暑くなるそうです。今日は三人の家族がやってきます。気を付けてホスティングします。