雨がひどく降るというので、予約の日にちをずらしてほしいという要望があり、本当は日曜日に4人来るはずだったのが、24歳の女の子一人になりました。午前中は雨が降らず、あれあれと思っていたら午後からしっかり降り出し、傘を差して一時過ぎに現れたのは大柄なヘイリーで、ノースリーブの黒いタックトップの腕にはオリーブの木やはなや花瓶のタトゥーが描かれていて、67歳のお父さんはギリシア人、62歳のお母さんはアメリカ人、ミシガン大学を出てミドルスクールでスペイン語の先生をしているそうです。
よくしゃべる活発で頭の良い子で、もし他の中国人ファミリーが一緒になったらどんな感じになるのかと思うけれど、民族の違いは結構難しいので、今日はヘイリーオンリーで良かったのです。二週間の一人旅で大阪や京都を回り、ミシガンは自然の多い所だから緑の深い京都や奈良は大好きだと言いながら、鹿やカピバラ?を見たという話をするので、ここは日本だよと笑ったけれど、飼っているのが逃げ出したのかと思ったりしました。柴又を傘を差して歩き、仏教彫刻もしっかり見てくれて、帰り際には夫が用意した酒をくいっと飲んで、日暮里のスシローへ夕飯を食べに出掛け、明日は河口湖へ富士山を見に行くそうです。
健全で明るい彼女のお父さんと私はあまり年が違わず、孫だか娘だかわからないヘイリーが選んだのはひで也工房の明るい花模様のカラフルな浴衣で、おはしょりが少ししか出ないので腰ひもが見え、本人も私も気にして隠そうとしていました。でも参道の方々に「綺麗ねー」と随分褒められ、すれ違った後追いかけてきて、目を輝かせて話しかけてきた女性もいて、才能あふれるひで也工房の英也さんが精魂込めて作り上げたこの浴衣は絵画のようで、それを大柄な外国人のヘイリーが着て歩く姿は、私の作品であり誇りなのです。古い結城紬を男物に仕立て直して、どんな外国人が着てくれるだろうと想像しているとき、私は限りなく幸せです。
ハワイから来ていたおじいちゃんたちが泊まっていた立石のエアビーホストの方から、とても良かったと彼らが話しているのを聞いて、そこのお客さんに私のところを紹介することはできるだ言う問い合わせが在りました。化繊の着物でないので簡単に洗えないから、一日貸して着せるのはちょっと怖いのですが、美術館や画廊などで、外国の男性が紬など着て歩いていたらかっこいいし、アシュレイも単衣の紬を着て一緒に歌舞伎座へ行った時も本当に素敵でした。
どうしようもなく暑いこの夏に、どのように外国人に着物を着てもらうかを考えています。私だけの力ではできないことを、どなたかの助けを借りてやれることを探すことが、今の私にとってけがえのない希望です。着物は文明ではなく、文化なのです。