ハウルの動く城

 着物に着替えてから写真を撮るため赤い毛氈の上に立ってもらい「ポージングして!」というと戸惑って硬くなるゲストが多い中で、このトライアスロンカップルは次々と奇抜なポーズを繰り出し、カメラマンの夫は必死でシャッターを押し続けていました。クルーズで日本の各所を回って、青森や宮島などの素敵な写真や着物姿のツーショットもたくさんあったけれど、こんな風に奇抜な面白いポージングをしているのは無くて、私の体験の売りはこういうところにあるのかもしれません。

 陽気で活発で楽しいミネはいろんなところにタトゥーをしていて、小さな字で書かれた文が二つあり、老眼で読めない私は何と書いてあるか聞くと、ジブリアニメの「ハウルの動く城」の中のセリフだそうです。ジブリ映画の中では唯一イギリスの女性作家の小説をもとに作られたもので、「心」とは何かという大切なテーマが存在しています。心のあり方次第で何もかもが変わり、その進むべき道が見える、映画の中で主人公のソフィーの容姿が変化していくのも、ハウルが心を決めて敵に立ち向かうことができるのも、それぞれが自分自身の心と向き合い、本当の気持ちにたどり着いたからで、何よりも自分の本心を見つけることが大切だという事なのです

 数々の名作を次々作り出している宮崎監督は、今だ自分の本当の気持ちのものができてないと、引退宣言を覆し、「君たちはどう生きるか」という重い映画を世に出しました。自分の本当の心を表現したい、82歳の監督の葛藤はずっと続いています。

 ミネの腕には[ A heart's a heavy burden.]”心って重いの”という言葉のタトゥーが小さく彫られています。心理学者の彼女がこの映画が大好きで強く影響を受けている、日本のアニメ、宮崎監督の存在は世界の宝だと感じるのだけれど、彼の表現する世界が一人の人間の生き方の支えになる、結局すべてが想像力の有無にかかっているのだとしたら、自分自身の心、本心が見つかるまでの長い道のりを歩いているうちに、いつか心は重い、しっかりしたものになるのでしょう。

 アメリカをリヤカーを引いて徒歩で横断している26歳の日本の若者は、誰も人の通らない広大なアメリカの大地を一歩一歩踏みしめ、天気やクマや道路状況などあらゆることに注意してすべて自己責任のもとに厳しい旅をしています。自分の心を見つめ、自らを鍛え試し、そしてユーチューバ―としてその道程を日々発信しているのです。37度を超す日々に加え、地震と台風による水害の恐怖に怯え、水やお米の消え失せたスーパーで安全な食品を探し、真実のわからないメディアやマスコミから遠ざかって、ひたすら自分の心を強くしていこうと思います。トライアスロンの二人と帰り際硬くハグして別れた時、私の心は強くなります。世界は広い、重い、だけれど永遠に続く何かがあります。自分を取り囲む環境の中で、想像力を働かせて、どう自分を変えて新しい価値を見つけていくかという切実さを、彼らは戦いの中に見つけていくのでしょう。こんな楽しい写真を残して、彼らはスペインのアリカンテに帰って行きました。