ウガンダ家族の後に予約してきたのは、マイアミに住む30代のヤングカップルです。180センチの旦那様と172センチの奥様は、爽やかで美男美女、結婚7周年記念の海外旅行を一か月楽しんでいます。旦那さんのマシューはゴルフが趣味だというので急いで夫を呼んでゴルフ談義してもらいながら、紺の紬を着せるとまあかっこいいナイスガイで、自分でも「カッコいい」と日本語で連発しています。
奥様のアンジェラはスカイブルーの眼のさらさらのヘアで、青が好きというので菊の模様の訪問着を着せ、袋帯を締めて素敵な若奥様に変身しました。どこをとっても、どこを見ても幸せそうなこのアメリカ人の知的なカップルは、これまでに来たゲストの着物写真を見ていて、急に「エイミーだ」と紫の振袖を着た美女の写真を指差すので私はびっくりしました。去年の十月の雨の日に旦那様と二人で来たエイミーは、情熱的で人懐っこい旦那さんのエヴァンと比べて心の中に孤独感を秘めていて、綺麗な写真をたくさん撮ったのだけれど、最後まで心底笑うことはなく、帰り際ガツンとハグしたエヴァンの後で抱いたエイミーの体はぎこちなく硬かったのです。結婚4年目、ペニーという犬を可愛がっていると写メを見せてくれた時点で子供はいないと察したのだけれど、着物を着せながら世間話をしていて、私には孫はいないのと彼女に告げ、その時はとても辛くて、それをエミリーは感じたようでした。夫は出かけていたので私一人でティセレモニーも全部やり、柴又のお寺を見せ、参道で買い物をし、電車を待つ15分ロングトークをしながら、私はこれまで来たゲスト達の負の面のことを多く二人に語り、真剣トークをしました。いつもは楽しく冗談を言ったり明るい話をするのだけれど、エヴァンが何かを私に求めてエミリーを連れて来た感覚が強く、一期一会のひと時を私が出来るすべてをかけて見ようと努力しました。英語もおぼつかないし、言いたいことが全部言えたわけではないけれど、エミリーは初めて来たゲストがなぜうちでいろいろな告白をして泣いたりするのか、疑問に思ったようでした。
4時間過ごして別れ際、エヴァンがトイレに入り、私とエミリーは二人きりになり、どう会話をつなごうかと悩んで、私は禁断の質問「子供さんはいるの?」をしてしまうと、彼女は「いないの、あなただって孫がいないでしょ」と返してきました。自分の中に苦しみがある人は、他人の苦しみにも敏感なのです。それは私も同じ、そうか私たちは同じ孤独を抱えているのでした。二人を見送りながら、エイミーのことを深く考えていました。
エヴァンの苗字がポラックで、私は映画監督のシドニーポラックが好きだったからその話をすると、彼も自分もユダヤ系アメリカ人だといい、エミリーもユダヤ教徒でした。バイオリンを弾きサルバートレ・ダリが好き、ニューヨークの文化は何と聞くと「busy」と即答するエミリーは、アメリカンガールのアンジェラとは違う感覚の持ち主で、面白かったのがマイアミの文化は何?と聞くと、アンジェラはたくさん住んでいる南米系の住民が賑やかにパーティーをしていることと答えたことです。自分が自分でいられること、何かを作り出すためには、自分の中の感覚や気持ちを深く考え続け、孤独の中で悩み苦しみながらも探していかなければならない、民族とかアイデンティティとか、複雑なものも自分だと納得する、それにはずいぶん時間がかかります。優しくてひょうきんでたくましいエヴァンのことを愛しているけれど、一人っ子で芸術家肌のエイミーは、何かを抱え続け、強い自我を持っているからこそ傷つきやすく硬い殻の中に入り込もうとするけれど、それを傍でずっと見ているエヴァンはなんとかしようと頑張っているのです。やはり私のところには鋭い感覚を持った外国人の男性が多く来る気がします。時々顔がごちゃごちゃになるのですが、共通していることは皆イケメンでした。
そのエミリーが良かったよとアンジェラに私の体験を勧めてくれたと知って、嬉しいというより意外な感じがするのだけれど、結婚7年目のアンジェラも二匹の犬を飼っていて、子供はいないようです。でもこちらは明るくて、駅でも楽しくしゃべり、コンビニでビールを買って最後に酒盛りをしながらしゃべりまくった、屈託のないアメリカ人夫婦でした。いろんな人間がいて、いろんな性格や関係があって、助け合っているんだなと思います。マイナスはマイナスでいい、自分でいられるならそれでいい、でもアンジェラを通して、ずっと気になっていたエミリーと私はまた繋がれたことが、心から嬉しいのです。