スモークサーモン

 昔の仕事仲間と今日は飲みに行くそうで、まだ暑い夕方夫は銀座へ出かけました。だいぶ食欲が戻り、少し肉がついてきて、毎日何を食べさせようか考えているけれど、今晩は私が好きなものを作ろうとスーパーへ行っても、商品の後ろの成分表を見るとほとんど買えなくなってしまい、昔ながらの手作り豆腐や鶏ひき肉を買って塩麴麻婆豆腐を作りました。今までは麻婆豆腐のもとを買い、ハンバーグでも成形してあるのが便利だし、揚げ物でも総菜を利用していたけれど、腐らせないために保存料や添加物を使い、油も使いまわしているからよくないと知ると、自分でなんでも作ればいいのだと改めて気が付きます。手作り豆腐は無添加だからこの季節傷みやすいので、湯通ししてざるにあげ、冷めたのをそのまま一つつまんだらその美味しいのにびっくり、昔の味です。水を張った水槽にお豆腐が入っていて、買いに行くと取り出して大きな包丁で切って売ってくれた近所のお豆腐やさんのことを思い出しました。

 娘が来週発表会用の着物を取りに来ると連絡があり、厳選した食材で何を作ろうか考えていて、シンプルに素材の味を生かして手作りしようと思っていたら、夜遅く帰って来た夫が王子のスモークサーモンの切り落としを二つ買ってきてくれました。今までだと私はとても嬉しくて、村上春樹の小説「海辺のカフカ」で柔らかい白パンにクレソンとスモークサーモンを挟んで食べるシーンを真似て食べていたのですが、袋の後ろを見ると養殖で添加物もいろいろ入っているのを見てちょっとめげてしまいます。私達はやっぱり断崖絶壁に居ます。昨日はまた株価がさがり、仲間内でも一人だけ孫がいない夫は最近は諦めの境地なのですが、YouTubeであげられる若い家族の動画はお菓子やジュースや安い食品を買って食べ、子供でもスマホに見入っていて、発達障害も増えているし、親でも鬱病になり働けないで主夫になっている若いお父さんもいて、でも奥さんはヤンキーぽっくって行動的で、そして温かい心でいつもいることに感動するのです。

 高度成長で発展し続けてきた社会自体が人間の心を蝕み、自分たちや環境や地球を追い詰めるものを作るために奔走してきた、トップにいるひと、競争社会で勝ってきたひと、その手が汚れていることに気が付かない人、だんだん悪しきものがつぶれて必要とされなくなってきている、淘汰が始まっている今、この時に孫がいなくてよかったと思っています。愛するものをどう育てていいかわからない、あまりに混乱しきった世の中です。子供たちも私も自分を見つめ続け、何が善か何が正しいのか、考えて自分の芯を作っていかなければなりません。

 村上春樹の「街とその不確かな壁」の中に、何かの解答がある気がします。自分の影とは何かと問い続ける彼は、デンマークでアンデルセン文学賞をもらた時に、アンデルセンの「影」という小説に言及した深いスピーチをしています。この前来たデンマークパパに、アンデルセンについてどう思うか聞いてみたいものです。そういえば彼に黒地の縞の浴衣と兵児帯をプレゼントしました。男物は着るのが簡単だから、ウガンダで着てみんなに見てもらいたいなと考えると、限りなく嬉しいのです。