ドバイから来るゲストは多いのだけれど、そこで働いているフィリピンやインドの女性だったりして、中東に住む現地の方はなかなか来ないので、クウェートから50代の夫婦が予約してきた時私はとても興奮し、イスラム教について調べたりアラビア語の挨拶を覚えたりしながら、かなりナーバスになっていました。他宗教に対して厳しい目を向けるのではないかと予測して、お寺に行っていいものかどうかも悩んでいたのですが、交通事情が悪いから17分遅れると連絡があり、タクシーで現れた二人はとてもフレンドリーで話好きの明るいゲスト達でした。白いヒジャブを付けた奥様は明るい色が好みで、黒振袖に金の帯を選び、ヒジャブにかんざしを付けてとても綺麗で、恰幅の良い旦那様は義父の大島紬を着て刀を差し、二階では鎧も被って写真を撮り、ティーセレモニーもして一通りのコースを辿り、浴衣に着替えて暑い中柴又も回って4時間コースを終了しました。奥様は動画を撮りながら説明を話し、ルポをしているブログを作っているようで、いろいろ立ち止まりながら自撮りの写真もたくさん撮っていました。
旅行が趣味で世界中を回っているけれど仕事が忙しく、初めての日本は五日間の旅で東京だけ、昨日は富士山へ行き、ヴェジタリアンで食事も日本食よりアラビア料理が良いようです。やはり暑いのは大変で、帰って来て浴衣を脱いでほっとしていたけれど、お酒を飲めない国なので乾杯もできないから、プレゼントにオレンジの道行きと羽織を差し上げると原色カラーの好きな奥様はとても喜び、お返しにアラブの沈香の香水を戴きました。帰りのタクシーを待つ間料理が好きな奥様は食卓の写メを見せて作り方をみんな教えてくれ、食事は夕食のみという旦那様はすべてが美味しいんだと目を細めています。二階の仏壇や床の間に飾ってある故人の写真にも興味を示して敬意を払って下さり、奥様のする質問は意表をつくものが在って、タンスの中の着物の写メも撮っていました。
クウェートは小さな国で結婚もクウェート人同士して、沢山の家族が一緒に住み、宗教を大事にし年長者を敬い、オイルマネーで経済は豊かだし、とても幸せに暮らしていると言います。勿論ホームレスなどいないし、アメリカから輸入した果物などを豊富に使ったサラダの写メを見ながら、これまで来たゲストのように日本の食べ物が美味しいとは言わず、自国の食事を愛し、家族で暮らすことが楽しいという国民性は私にとって初めてでした。ノルウェーなどの北欧に旅行した時、寒くて暗くて人々は幸せそうでない、何よりも夜になっても明るいというのは健康に良くない、だから国民性もダークだと二人で言うのです。
柴又からの帰り道、タクシーで帰ると言われ、しばらく待ったのだけれどつかまらないので諦めて電車に乗ったのですが、クウェートには電車が無くてタクシーか車だと後でわかったことや、手を洗ってもタオルで拭かず振って乾かすこと、メイドがいるのが普通で、掃除はメイドがするのかと聞かれたこと、日本の家はいくらするのか、政府のものか?と聞かれたこと、コンビニにはいかないこと、ラクダがいて、その関する歌を奥様が綺麗な声で歌ってくれたこと、日本についていろいろ知るより、自国の良さを再確認するために旅をしている二人は、最後の十分間濃密な話をして熱くハグをし、タクシーに乗り込んでからも手を振り続けていました。
これまで来たことのない国から、全く予想の付かない民族性のゲストが来て、時間を過ごして思うことは、やはり地球は広くて複雑だという事です。イスラム教について調べて色々得た知識とは全く違う大きなカルチャーショックを受けたのだけれど、人間一人一人生きていること自体が文化で、それをこれまで見続けてきた私は、有難いものを見せてもらってきているのです。私の体を見て下さる方が、先だって来ていろいろ話をしていて、「あなたの人生は波乱万丈だね」とふと漏らし、そうなのかなと思うけれど、70年かかってやっと自分が何をしているかわかってきて、いつもゲストにする質問、あなたの国の文化は何ですか?の答えは、自分が考えてやってきたことすべてと答えたいのです。旦那様が夜に下さったレビューは、I really enjoyed the atmosphere and hospitalityとありました。雰囲気、空気感の共有は無意識のものです。今日はシンガポールから20代の女の子が別々に二人来ます。これが私の仕事だと言えるものが在る有難さを感じています。