デンマークパパは、ハルキスト⁉

 デンマークパパからの写真付きのGメールが入っているのに気が付いて、急いでクリックして見ると、英語の本が並んだ本棚が写っています。作者名はMurakamiとあり、「1Q84」「ノルウェーの森」「一人称単数」「羊たちの冒険」「色彩のない多崎つくるとその巡礼の旅」「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」(全部英語の題名です、勿論)が並んでいるのです。「おすすめは何ですか?」と添えられてあって、私はずっと悩みながら「騎士団長殺し」「街とその不確かな壁」短編集は「神の子どもたちはみな踊る」にしようかと考えています。

 娘さんのレイチェルが「パパは読書が好き」といった時、もしかして日本の小説も読むかなと思ったのですが、まさかのハルキストだとは知らず、世の中は狭いとびっくりしています。アンデルセンの小説「影」についてパパは知っているのか聞いてみようと思うのだけれど、春樹さんのキーワードも影であり、壁であると私は感じています。戦争でパブアニューギニアにも行った義父は柔道がとても強かったので、海軍の上官の護衛のような立場にいたらしく、戦ったり危険な場所には行かなかったので、私が酒の相手をしながら聞く話は、現地の人達がカツオやヤシ酒を持ってきてくれて宴会をしたなどというもので、上半身裸の現地の女性の写真もあり、のどかなものが多いのです。

 春樹さんの小説を読んでいると、戦争ですさまじい経験をした人たちのトラウマや嘆きが描かれている部分も多く、それでも戦いというものは生死をかけるもので生き延びたということは相手を殺めたことになるということです。壮絶な戦いを経て生き延びたのかもしれない謎に包まれたご先祖様のことを考えていて、ふと彼は影だったのではないかと思いました。ああそうか、私も本体ではなく影なのだ、だからこんなにも色々なことが気になり、ひき寄せられるのだし、沢山のゲストの中に入り込もうとするのも影だからできるということで、自分の本体をさがしていたのだったのでした。学校に馴染めず、何を求めているのかわからずひたすらさまよった日々は影の寄り添う本体を探していたからだ、そう考えると、すべてが辻褄があうのです。そしてひき寄せられたのがここに居らっしゃるご先祖様の影だったのでしょうか。

 私の姓名判断が悪いのも、学校や集団に馴染めず逃げ出したのも、孤独癖も、私が私という影だったとすると、至極納得できるのです。長い年月、影としての私が壁の向こう側で生きてきて、エアビーの仕事をするようになり外国人と接触し、そしてコロナ禍の中で何かの浄化作用を経験して、義母が亡くなって、今まで自分の生きている意味が解らずなぜこんな風にしか生きられないのかと思っていたことが、実は影から自分に戻るための試練であり通過道だったとある方に教えられ、それから来るゲストがかなり特異な国からやってくるようになった時、私は自分にやっと戻ったのです。

 そうして目をあげて世界を見てみると、どこもかしこも影が跋扈し、とんでもない混沌の渦の中をみんなが歩いていることがわかるのです。今までいた世界から、壁を抜けて、トンネルを通ってあちら側に行かなくてはならない、春樹さんの最新作「街とその不確かな壁」の意味がやっとわかってきました。デンマークパパにとって、ウガンダは壁の向こう側だった。正しい知恵と勇気をもって、壁の向こう側で暮らす準備をしなければならない。皆必然だった、でもここまで来るのに70年かかりました。