香港のVirginia

 久しぶりに夜中に予約が入り、今日来るとのこと、頼まれた喪服の長襦袢の半衿付けをしながら、むしむしと暑い日中に何を着せようかと迷っていました。浴衣も単衣の着物も片付け、袷の着物を全て揃えたのだけれど、十月の半ばだというのにこの暑さではとても着せられないと思っていたら、定刻より20分遅れて到着したスリムな24歳のバージニアは肩を出した短いタンクトップに白いパンツで、長いエクステの黄色のドレッドヘアに鼻ピアス、腕輪をたくさんつけ、サンダルも足首にジャラジャラとアクセサリーが付いた格好でした。落ち着いていて低音で話す一人旅の彼女はとても老成した感じで、とにかく真夏の服装だから家の中で振袖を着せ、外はひとえか浴衣を衿付きで着せようと思って選んでもらうと、この前コニーが着てとても似合ったオレンジとみどりの大胆な模様の振袖が気に入り、それに夏用のオレンジの名古屋帯を締め、髪は低めのアップにして簪を付けると綺麗な振袖姿になりました。それにしてもこのところ褐色の肌のゲストはこの振袖が大好きでよく似合い、続けざまに3人着ています。

 ティーセレモニーをしてから長襦袢を着たままでひで也工房の鮮やかな花模様の浴衣を着せて、黄色い半幅帯を締め柴又へ向かうと、中国人が振袖や留袖を着て写真を撮っていて、暑いだろうなと思いながら、でもカメラマンも中国人だからお寺の歴史も彫刻も漢字も何も知らず、ただ一時間以上も写真を撮るだけなのです。最近高砂も中国人の経営するエアビーの家が増え、中国にある家を売って高砂の建売住宅を2軒買ってエアビーに使っているという話を近所の中華料理店を営む中国人女性に聞き、やることが早く商売上手なことに感心はするけれど、家の周りの道を歩く異国人の姿が増え、寝ていると聞こえる声が何処の国の言葉かと考えてしまいます。

  バージニアはユーチューバーだそうで、香港で撮ったユーチューブを見ると30分近くの動画をあげているし、客観的にものを見てそれを言葉にして語るというのも能力だと思うのです。彼女のスマホの待ち受けは5歳くらいの彼女と3歳くらいの弟くんが笑っている写真で、彼氏とか今の自分とかペットとかを今までのゲストは載せていたよと私が言うと、彼女は笑ってこの写真が一番好きだからといいます。旅行が好きでファッションが好きで、露出の強い恰好でポーズを取るモデルのような写真は本当の彼女ではない気もします。みんな本当の自分を探している、それは私もいまだ同じですが、今回うちの着物を着て髪を結い上げてお寺や庭園で撮った写真は、今までの彼女とは全く違うもので、それをどんな風にみんなが見てくれているのかというのは興味があります。

 ゲストとは真剣勝負で綱の引っ張り合いをしている感もあり、バージニアは手ごわい相手だと思いつつ、今までとはまったく表情で着物をまとっている彼女の引き出しの中に何がしまわれて行くのか、興味深く見守っていきたい、帰り道彼女が「仕事のない時は何をしていますか?」と聞いてきて、年をとって忘れっぽくなるからブログに今日あったことを書いていく、明日はあなたのことをいろいろ考えて自分の気持を残していくのと答えたけれど、彼女も同じことをして行くのだろうと思うのです。

 この所アフリカにいルーツのあるゲストが多くて、明日は南アフリカにすむファッションデザイナーが帰国する日に予約してきました。大丈夫かしら。どんな展開になるか予想もできません。