成人の日

 いつもお世話になっている美容師の寛子さんの姪御さんが今年成人式で着付けを頼まれ、午後の部に参加ということで十時半にお宅に伺いました。ボブヘアで愛くるしい目をしたお嬢さんに会った時、思わず「可愛い‼」という言葉が出て来て、髪に白いヘアアクセサリーを付けてスタイリングが終り、寛子さんと二人で着付けをしながら、何度も可愛いと連発していました。大事にしまってあったママの振袖を出して見たら長襦袢に半襟がついていなくて、慌てて私が付けたのですが微妙にしわが出てしまい、衿は寛子さん好みでゆるく細く決めたので、成人式のパターンのきちんと詰めた物とは違い、ましてしわが少し出ているので、私としてはハラハラして、補正もせずすっきりしているけれど、着付けの先生たちからはクレームがつくものだし、沢山の振袖姿が並ぶと多分異色なのです。

 振袖も袴も一律みな同じに着せるという着付け業界の教えは、決して美しさや個性を際立たせないといつも思うことなのだけれど、寛子さんが作り上げた姪御さんの着物姿は、彼女の個性が滲み出た「可愛い」ものです。もし衿をきちっと詰めてみなと同じ様に着せたら普通に綺麗な振袖姿になるけれど、彼女の一度きりの成人式が彼女にしか出せない着物姿であったとしたら、それは素晴らしいものなのでしょう。

 半襟が綺麗についていない引け目を感じる私は、家族の皆さんにお会いしてからそそくさと帰ろうとして出口の段差に気が付かず、派手に転んでしまったけれど、怪我せず立ちあがって、着付けが終ってからでよかったとほっとしました。茶色の毛皮を首に巻くから襟元はそんなに違和感はないかもしれない、いつも着付けをした後はいろいろ不安で心配するのですが、今日は帯揚げも帯締めも衿も寛子さんにお任せしたので、ここで頭から消し去ることにしました。

 夕方近所の知り合いのおうちに振袖姿の5人の女の子が挨拶に見えて門の外でさんざめくのを私は三階の窓からずっとガン見していました。普通はこういう着付けをするのだけれど、そうするとどうしてもたっぷりとしてしまい、うーん可愛いとは言えなくなってしまいます。私は外国人のゲストに随分振袖を着せてきて、バストがゆたかで衿があまり出ないことが悩みの種だったのだけれど、なんだかそれで正解だった気がしてきました。みんなそれぞれ綺麗で、個性が際立ち、輝いていたのです。

 寛子さんが翌日小物を返しに来て、姪御さんがとても喜んでいたというのを聞いてほっとしたのですが、美容師さんなんだから一人で振袖が着せられるようにならなければいけないと彼女に言い、一人でできるようになったらどんな斬新な着付けをするようになるのか、私はとても楽しみなのです。何だかとても楽しい、成人の日でした。